精神科及び心療内科の立場からアメリカ人精神科医カウンセラーセラピストによるカウンセリング。
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  • 精神力動学的精神療法


    バーガー ダグラス 精神科医(著)

    精神科医:精神科・心療内科の立場から東京でカウンセリングを行っている米国出身のバイリンガルセラピスト


    力動学的精神療法の基本となる前提は、患者には幼少期の頃から数多くの大きな心理的問題があったということである。たとえば、愛されていないと感じる、認められていないと感じる、支配されていると感じる、家族内の葛藤などが考えられる。人は成長するにつれ、これらの感情を自分自身や他者との関係の中で乗り越えようと試みる。このような心理的問題を乗り越えたい、あるいは自分自身を守りたいという願望は、問題を悪化させるような行動(心理的防衛)をしばしば引き起こす。

    たとえば、筆者のもとに父親と兄からひどく支配されていると感じている男性がやって来た。彼は小学校時代、餓鬼大将であったが、高校生になるといじめられるようになった。彼は身長が低い上に、その横柄な態度が身体の大きな少年たちには気に食わなかった。大人になった彼は非常に厭世的で、しかも受動-攻撃的行動(すべきことをしない、あるいは人が嫌うことをして怒らせること。たとえば面接料を持ってこない)を呈することが多かった。しかし、それでも彼は皆に好かれたいと思っていた。彼の行為は子ども時代の経験を乗り越えるための試みであり、劣等感から自らを守る防衛的な手段であった。ただ実際には周囲の者を遠ざけるだけだった。彼が誰にも尊敬されないという事実は、対人関係の葛藤や人生への不満感へと発展した。そしてこのような問題で治療に通うようになった。 

    このタイプの精神療法は力動学的精神療法と言う。力動学的精神療法は、フロイトらによって示された心理的機能のモデル『自我心理学』に基づくと言われている。しかしこれは、ハインツ・コフートが提唱した『自我心理学』や、メラニー・クラインやオットー・カーンバーグらによって発展させられた『対象関係論』の影響も受けている。

    自我心理学は次の三つの考えに基づいている。人には、(1)無意識が存在する、(2)子ども時代の重要な他者との関係が大人になってからの他の人との関係に『転移』する(患者の転移の典型例は治療者との関係である)、(3)不快な感情が起こるのを防ごうとして『防衛機制』を使う。 

    無意識の世界には、互いに葛藤し合うことの多い複数の考えや感情が存在するが、たいていは何らかの妥協によって、ぶつかり合うニーズの両方を満たすことが試みられる。それにより、非適応的な特性(何らかの症状や人格の病理)と適応的特性(その人の喜びや生産性や健康な人間関係の一般的なあり方)の両方が同時に生じる。患者と何度も話をするうちに関係が出来上がり、その中で思考や感情の無意識的かつ習慣的パターンに関するヒントが見つかる。夢もまた無意識をより深く理解する有用な方法である。目的は、患者の病理全体の中に数は少ないけれども蔓延している問題を探し出すことである。病理の源は、患者の個人的な過去へと遡って見つけることが可能である。治療では、患者の転移や防衛を分析することによって、患者がよりふさわしい方法で自分の葛藤を処理できるよう援助する。しかしこのプロセスは時に困難を伴う。なぜなら、長い間患者が使ってきた防衛のスタイルを捨て去ろうとするとき、無意識が抵抗を起こすからである。 

    心理的葛藤は、両親に対して愛情と依存を同時に求めることによって生じることがよくある。たとえば、侵入的な両親に対しては、愛情欲求を表現することが難しくなる。「きちんとしすぎた」両親を持つ十代の子がいた。その子は部屋をいつも汚くしていたが、その子が表現しているのは自立したい(両親と同じことはしたくない)という気持ちと愛され世話されたい(母親が来て掃除をしてくれなければならない)という両方の気持ちであった。反抗的態度を示してもそれをものともせずに周囲が愛情を示し続けてくれない限り、怒りと苛立ちや不安と抑うつなどを含む症状に陥ってしまう。このケースでは、怒りと愛情の葛藤を両親に直接表現することに対する防衛と、無意識による「転移」のスタイルが非適応として捉えられる。 

    防衛が失敗に終わった時には心理的症状(例:不安、抑うつ)が現れる。そして非適応的防衛である時には他者との関係がうまくいかない。たとえば、無意識内の自己不適切感に対する防衛としての傲慢な態度が失敗した時、抑うつ感情が生じ対人関係は難しくなる。それは対人関係として適応した行為ではないからである。 

    自己心理学モデルはここまで構造的ではないが、両親は子どもたちが何かを達成できるように「鏡映」し、支え褒める必要があるとしている。共感に失敗すると、自己適切感の発達が歪められたり妨げられたりすることになる。その結果として何らかの症状が生じたり、他者との対人関係のスタイルに害が及ぼされたりする。そしてここでも、自己発達におけるこのような障害を補おうと防衛が働く。共感は自己心理学モデルの中で治療の主たるツールとされている。それにより患者の自己不適切感を解消する援助を行う。治療では患者の転移と防衛のスタイルを分析することにより、共感の失敗の原因を理解する。そして非適応的な対人関係のスタイルを改善する。この非適応的なスタイルは、根底にある自己不適切感に基づくと考えられている。


    参考文献

    The Psychodynamic Formulation: Its Purpose, Structure, and Clinical Application. By Samuel Perry, M.D., Arnold M. Cooper, M.D., and Robert Michels, M.D., American Journal of Psychiatry, 1987;144:5:543-550.


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